お問い合わせはこちら

日本の国際競争力を高める3つのファクター

日本の国際競争力を高める3つのファクター

GDPは優れた指標なのか

GDPは国民総生産を意味するが、もっと言えば国生総産量であり、量を表す指標である。GDPは1940年代に生まれ、資源や物質などの戦争を遂行できる生産力がどれだけあるかを正確に把握するための指標として米国とイギリスが開発した歴史がある。つまり、国の生産量を示すことで競争力を比較しようとしたのだ。英国のケンブリッジ大学のダイアン・コイル教授は「第2次世界大戦が生んだ数多くの発明品のひとつ」とこれを位置づけ、評価した。

実質GDPは、名目GDPから物価変動の影響を取り除いた値で、基準とする年の価格で計算されます。インフレやデフレを考慮し、価格変動の影響を除いた実際の産出量の増加のみを測定しており、経済の成長や縮小をより正確に評価するために使用される。潜在GDPは、現存の経済構造のもとで資本や労働などの生産要素が最大限に投入された場合、または過去の平均的な水準まで投入された場合に実現可能な総産出量を推計した値である。さらに潜在GDP成長率とは、GDPの前年比伸び率で、中期的に持続可能なGDP(潜在GDP)の伸び率を示す指標である。潜在GDPは、モノやサービスを生産するために必要な生産要素を過去の平均的な水準で供給した場合に実現できると推計されるGDPで、労働投入、資本投入、全要素生産性の3つの生産要素の平均的な投入水準から得られる。GDPと異なり、短期的な景気循環は直接反映されない。これが外部要因の除外、将来的価値を加味した現代でも活用に堪え得る指標だと考えられる。

GDPに代わる指標はあるのか

現代の経済的な競争力を比較際にもしばしば用いられるGDPだが、現代にそぐわないという声も聞く。この違和感は総量が大きければ競争力が高いのかという違和感だということが推察される。そこで持ち出されるのが国民一人当たりの国民生産量よいう指標だ。しかし、これも総量を人口で割っただけの指標である。次に競争力を生産性という効率で表せないかという声が起こることがある。労働量を労働人数にすれば、労働者1名あたりの物的労働生産性になり、労働量を労働人数×労働時間にすれば、労働者1名1時間あたりの物的労働生産性を算出することが可能だ。

他方で、GDPに代わる複合指標が模索され、多くの経済学者から提案されている。その例として頻繁に取り上げられるのが、ブータンの「国民総幸福量(GNH)」だ。心の健康、生活水準、地域の活力、環境の回復力などの分野を網羅し、憲法にも明記されている。国連環境計画(UNEP)の「包括的な富指数(新国富指標)」もそうだ。各国の経済、人的資本、人工資源、自然資本の社会的価値を総計し、持続可能な発展を遂げているかどうかを評価する指標を備えている。ちなみに現在、140カ国近くがその基準に達していない。さらに、経済協力開発機構(OECD)の「より良い暮らし指標」では、住宅価格からワークライフバランスまで、生活の豊かさを測る指標を採用している。

日本の相対的な競争力は

日本は10年間、GDPも国民一人当たりのGDPも成長せず、他国が成長した結果、日本の相対的な競争力は低下したと言わざるを得ない。2012年に、日本の1人当たりGDPは、アメリカとほとんど同じだった。そして、カナダ、アメリカについで、G7で第3位だった。しかし、2022年には、日本の1人当たりGDPはアメリカの45.7%でしかない。日本の労働生産性は、OECD加盟38カ国中、2022年の時間当たり労働生産性(就業1時間当たり付加価値)で30位、一人当たり労働生産性(就業者一人当たり付加価値)で31位と、過去最低順位となっている。

日本が生み出した付加価値額を比較する場合、国内総生産(GDP)を用いる。そこで、はじめに実質 GDP を用いて海外との付加価値額の比較を行ったところ、。米国が世界全体の 20%を占め、次いで、中国、日本、ドイツと続き、上位4か国で世界全体の GDP の約半数を占める。その日本において製造業が占める割合は20%程度である。日系企業から生み出される製品群の世界市場規模及び世界シェアについて見ると、世界市場で売上額が1兆円以上となる製品群は 26 個あるが、日本の製造業が自動車産業に大きく依存した構造であることが分かる。

競争力についての発表には、世界経済フォーラム(WEF:World Economic Forum)が発表している「国際競争力レポート」や世界知的所有機関(WIPO:World Intellectual Property Organization)、コーネル大学、INSEAD(欧州経営大学院)が発表する「Global Innovation Index Ranking」がある。WEF が発表している国際競争力レポートによれば、日本の全体の競争力はやや上昇傾向であるが、イノベーションの競争力に着目してみると、日本の順位は8位となっており、最近の5年はほぼ横ばいで推移している。更に細かい小項目の“Capacity for Innovation(イノベーション能力)” では、日本の順位は 21 位となっており、2013 年を境に下降傾向にある。

経済的観点において日本が相対的に競争力を高め続けている事実は確認されない。たとえ、「国民総幸福量(GNH)」や「包括的な富指数(新国富指標)」を基に議論しても、どうやら日本の競争力は低いことは逃れられない事実でありそうだ。

日本の産業別の競争力は

国勢調査における15年間の産業での労働力の変化を確認すると「医療,福祉」「情報通信業」「教育,学習支援業」が増大、「製造業」「建設業」「卸売業,小売業」が縮小している。全体での順位としては、「製造業」が1位であったのが「卸売業,小売業」を逆転している。「製造業」と「卸売業,小売業」のみで全体の30%を超え、依存度が高い。

さらに第1次~第3次産業の分類で確認すると第3次産業が20%であったところから現在は70%を超えるに至っているこれは「ITに代表される知識産業の到来」と表される事象である。日本の産業別の競争力は労働参加の点において、「製造業」がGDPに最も大きくネガティブな影響を与えた結果となっている。つまり、製造業が日本の競争力を高めてきたという論調とは反対に、ここ15年では製造業が日本の競争力を低めてきたことが分かっている。

イノベーションの創出におけるスタートアップの重要性は高い。評価額が 10 億ドル以上の未上場スタートアップは「ユニコーン企業」と呼ばれ、グローバルに見ると、米国と中国に多数存在している。ユニコーン企業のうち、米国が半数程度、中国が30%程度を占め、評価額においては、時価総額につても同様である。ドイツ、日本のユニコーン企業の数はわずかとなっている。

ITによる世界の競争力を指標化したものに、世界経済フォーラム(WEF)の世界ITレポート(The Global Information Technology Report)というものがある。これによると、ビジネス現場でのITについては評価が高い傾向になっている一方で、ビジネスとイノベーションの環境というカテゴリーでは最もランキングが低くなっている。日本におけるイノベーションのビジネス環境においては世界的に見て遅れているのが実情である。そこには、人材の育成・活用が遅れているという課題が数値に表れている。

結論

これらの事実から、日本経済は産業の比率が製造業と卸売業に依存しており、そこでの生産性が低下している状況に対して、いち早くIT導入だけでなくイノベーションのビジネス環境を整備し、スタートアップへの資本投入、人材の育成・活用による労働投入の必然性が浮かび上がる。これの成果は、中期的に持続可能なGDP(潜在GDP)の伸び率を最大化する行為であり、潜在GDPによって、労働投入、資本投入、全要素生産性の3つの生産要素を最大化することで、過去の平均的な投入からの上昇率で持続的に判断可能である。

日本の相対的な競争力を高めるには、潜在GDP成長率をKPIとし、イノベーションのビジネス環境整備、スタートアップへの資本投入、人材開発の3点を最重要課題とすることが求められると同時に、特に労働力の30%占める「製造業」「卸売業,小売業」に携わる日本企業は、それらに注力せざるを得ない。これに成果を生まなければ日本経済の競争力は高まらないことに国民も政府も気づき始めているからだ。しかしながら、「製造業」「卸売業,小売業」に携わる日本企業にそのような知的資本はない。重要課題として定められたイノベーションのビジネス環境整備の方法、スタートアップへの資本投入の方法、人材開発の方法が分からない大手企業のコーポレート部門の担当者が、これらの知的資本系サービスの提供を求め、いくつかの企業がその提供を開始している。但し、これもビジネスであり、長期間で高額なプロジェクトとなる可能性が高いため、短期的なインパクトにコミットするコストパフォーマンスが高い知的資本系サービスが求められ始めるだろう。