脱炭素、次世代モビリティ、先進医療。社会は今、巨大な変化のうねり=メガトレンドの只中にある。しかし、これらの課題はあまりに大きく、複雑だ。本連載は、1社単独での解決が不可能な時代に、なぜ「共創」=オープンイノベーションこそが唯一の解なのかを提示する。
1社で立ち向かえますか?
企業の経営者や、新規事業、R&Dの担当者であれば、日々突きつけられている問いかと思います。
「脱炭素社会を実現せよ」 「次世代のモビリティを構築せよ」 「人生100年時代の医療を提供せよ」
これらは「メガトレンド」と呼ばれる、社会全体を巻き込む巨大な変化のうねりです。 確かに、これら巨大な変化は、新たな事業機会の宝庫に見えるかもしれません。
しかし、その本質を直視したとき、果たして**「自社1社で対応できる」**と断言できるでしょうか?
課題は「1社の事業機会」から「社会の共通課題」へ
私たち日本オープンイノベーション協会(JOIA)は、これらのメガトレンドを、もはや「1社の事業機会」である以前に、産業界全体、ひいては社会全体で取り組むべき**「共通課題」**であると捉えています。
例えば「脱炭素」一つとっても、求められるのは、高性能なEV(電気自動車)を作ることだけではありません。 安定した電力網、充電インフラの整備、バッテリーのリサイクル網構築、そして関連する法制度の整備まで。 これらは、自動車メーカー1社、あるいは自動車業界1つの努力で完結するものでしょうか?
答えは明確に「否」です。 エネルギー業界、素材業界、IT業界、そして大学や官公庁。 あらゆるセクターのプレイヤーが連携しなければ、社会実装は不可能です。
「自前主義」という壁
にもかかわらず、多くのイノベーションの芽は「自前主義」という壁に阻まれています。 自社の技術、自社のリソース、自社の顧客だけで完結させようとする従来のアプローチです。
- 技術のサイロ化: 素晴らしい技術シーズが、業界や企業の壁を越えられず、社会課題の解決に使われない。
- リソースの限界: 1社で基礎研究から社会実装までの膨大なコストとリスクを背負いきれない。
- 視点の欠如: 自社の常識や論理に縛られ、社会が本当に求める「あるべき姿」を見失う。
1社が技術、ビジネス、社会課題の全てを抱え込むことは、もはや不可能です。 この「サイロ化」こそが、日本全体のイノベーションを阻害する最大の要因となっています。
今、必要なのは「協業の地図」
だからこそ、オープンイノベーションが必要なのです。
自社に足りないピースを認め、他者の強みをリスペクトし、共通の課題=大義のために協業する。 JOIAは、そのための「公」のプラットフォームです。
本連載では、JOIAが独自に分析したメガトレンドの全体像を「協業の地図」として提示します。 その地図を手に、巨大な社会課題を「技術」「仕組み」「社会価値観」の3つの側面から分解し、どこに「協業のタネ」=オープンイノベーションの可能性があるのかを探っていきます。
次回は、特に「技術(T)」と「仕組み(B)」がいかに複雑化し、自前主義の限界に達しているかを具体的に解説します。
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