「統合イノベーション戦略2024」の要約
2024年6月4日に内閣府によって閣議決定された「統合イノベーション戦略2024」では、不確実性の高い状況下において、国際的な協調を図りながらテクノロジーの社会実装を加速するというものだった。前回「統合イノベーション戦略」から大きく刷新されたわけではないが、改めて、「イノベーション・エコシステム形成」について着実に推進することが求められるものとなった。
原案通り、国内投資が拡大の兆しを見せているとして、「『潮目の変化』を持続的な成長につなげるラストチャンス」であるとうたい、官民が大胆な研究開発投資を行い、経済成長につなげる考えが示された。
これは日本オープンイノベーション協会をはじめ、各団体が共創基盤として活用されていくべきだという見解が背景にあると考えられる。具体的には、、都市や地域、社会のニーズを踏まえた大学・国立研究開発法人等の研究開発成果が、スタートアップや事業会社等とのオープンイノベーションを通して事業化され、新たな付加価値を継続的に創出するサイクルを形成し、このサイクルが、社会ニーズを駆動力として活発に機能することにより、世界で通用する製品・サービスを創出する。さらに、事業の成功を通じて得られた資金や、経験を通じて得られた知見が、人材の育成や事業会社・大学・国立研究開発法人等の共同研究を加速させる。こうして、大学や国立研究開発法人、事業会社、地方公共団体等が密接につながり、イノベーションを創出するスタートアップが次々と生まれ、大きく育つエコシステムが形成されるといった事象を生み出されることが望ましい。
また、「レジリエントで安全・安心な社会の構築 」をイノベーション戦略のひとつとして、必要なインフラの建設・維持管理・更新改良等を効率的に実施することにより、機能や健全性を確保し、事故や災害のリスクを低減するなど、国土強靱化に係る科学技術・イノベーションを活用した総合的な取組みを推進するとした。これは、社会基盤を揺るがす動向があることの裏返しでもあり、その解決策としてイノベーションを用いているところには、深い理解が必要だろう。
「『安全・安心』の実現に向けた科学技術・イノベーションの方向性」に基づき、いかなる脅威があるのか、あるいは脅威に対応できる技術を「知る」とともに、必要な技術をどのように「育てる」のか、育てた技術をどのように社会実装し「生かす」のかを検討し、また、それらの技術について流出を防ぐ「守る」取組を進めるということ。
その先には「脱炭素社会」、「循環経済」、「分散型社会」という持続可能性の高い社会の実現がある。「脱炭素」は今回の「統合イノベーション戦略2024」の中で50回を超えて登場するほど重要度が増している。ここで示されているのは「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略(2023年7月28日閣議決定)」すなわち「GX推進戦略」と同意義である。「循環経済」は「循環型社会形成推進基本計画(2018年6月19 日閣議決定)」と同意義であり、いわゆるサーキュラーエコノミーである。「脱炭素社会」と深い関係性を持ち、互いに補完する。「分散型社会」は「循環経済」を構築する上で欠かせない社会構造である。
循環経済の実現に向けて、廃棄物の処理・適正管理に加え、代替素材の開発などのイノベーションを促進していくべく、製品の長寿命化や資源の長期的保全・維持、廃棄物の発生の最小化などを進める。また、各地域が自然資源や生態系サービス等の地域資源を生かして自立・分散型の社会を形成し、地域の特性に応じて補完し、支え合う「地域循環共生圏」を創造しつつ、持続可能な地域づくりや国民のライフスタイルの転換を促進する。
このような経済社会の再設計(リデザイン)に向けた具体的な取組を進め、その際、グローバルな視点とともに社会実装を意識した「地域」の視点も重要であることから、地域の脱炭素化に向けた取組を支える分野横断的な研究開発を推進するとともに、三つの移行を統合的に具現化する「地域循環共生圏(ローカルSDGs)」の創造を目指すとしている。
統合イノベーション戦略2024の方向性
- グローバルな視点で研究力や産業競争力、経済安全保障への対応を一層強化していくことが重要であり、G7を
含む同盟国・同志国やASEAN・インドを含むグローバル・サウスをはじめとする国際社会との連携を強化していく。 - 国内では、人手不足の深刻化に伴い、AI・ロボティクスによる自動化・省力化が急務であり、また、頻発する災害
への備えや対応も喫緊の課題となっている。 - これらに科学技術・イノベーションが果たす役割は一層重要となっており、テクノロジーの社会実装を加速していく。
3つの強化方策と3つの基軸
3つの強化方策として、「重要技術に関する統合的な戦略」、「グローバルな視点での連携強化」、「AI分野の
競争力強化と安全・安心の確保」を推進していく。
併せて、従来からの3つの基軸である「先端科学技術の戦略的な推進」、「知の基盤(研究力)と人材育成の
強化」、「イノベーション・エコシステムの形成」について、引き続き着実に政策を推進していく
重要技術に関する統合的な戦略
- コア技術の開発、他の戦略分野との技術の融合による研究開発(産学官の連携、AI・ロボティクス・IoT等による研究開発推進等)
- 国内産業基盤の確立、スタートアップ等によるイノベーション促進(ユースケースの早期創出、拠点・ハブ機能の強化等)
- 産学官を挙げた人材の育成・確保(産業化を担う人材、市場開拓を担う人材、研究開発を担う人材の育成・確保等)
グローバルな視点での連携強化
- 重要技術等に関する国際的なルールメイキングの主導・参画(開発・利用の促進、安全性確保、プレゼンスの確保等)
- 科学技術・イノベーション政策と経済安全保障政策との連携強化(国際協力・国際連携を含めた戦略的な研究開発、技術流出防止等)
- グローバルな視点でのリソースの積極活用、戦略的な協働(国際頭脳循環の拠点形成、国際科学トップサークルへの参画等)
AI分野の競争力強化と安全・安心の確保
- AIのイノベーションとAIによるイノベーションの加速(研究開発力の強化、AI利活用の推進、インフラの高度化等)
- AIの安全・安心の確保(ガバナンス、安全性の検討、偽・誤情報への対策、知財等)
- 国際的な連携・協調の推進(広島AIプロセスの成果を踏まえた国際連携等)
科学技術・イノベーションを取り巻く情勢
科学技術・イノベーションは、我が国の経済成長における原動力であり、社会課題の解決や災害への対応等においてもその重要性が一層増している。ウクライナ情勢やイスラエル・パレスチナ情勢など、世界の安全保障環境が厳しさを増す中で、先端科学技術等を巡る主導権争いは激化し、世界規模でのサプライチェーンの分断も起こっている。一方で、相対的な研究力の低下やエコシステム形成の遅れは、我が国の経済成長や将来的な雇用創出への大きな影響が懸念される。