これまで、1社では解けない「共通課題」に立ち向かうため、D=社会課題を「大義」として協業する必要性を解説した。今回は実践編として、JOIAが分析したメガトレンドの全リストを「協業の地図」として公開する。この地図を使い、貴社に「足りないピース」=協業すべきパートナーを見つける方法を提示する。
はじめに:「協業パートナー」探しの地図
第3回までで、メガトレンドという巨大な課題は、T(技術)、B(仕組み)、D(社会課題)の3側面があり、特にDを「共通の大義」とすることがオープンイノベーションの鍵だと解説しました。
今回は、JOIAの分析レポートに基づき、100を超えるトレンドを**「協業の地図」**としてT・B・Dの3軸で再分類し、公開します。
このマップの目的は、GREATS版のように「自社の事業のタネ」を見つけることではありません。 JOIA版の目的は、「自社だけでは解けない課題」を特定し、「協業すべきパートナー」がどの領域にいるかを見つけることです。
注:以下はJOIAの分析に基づき、トレンドをT・B・Dの3つに分類したものです。トレンドによっては、複数の属性を持つものもあります。
【 T 】Technology:協業すべき「技術シーズ」
基礎研究や高度な専門技術が求められ、産学官連携の必要性が高いトレンド群です。
- 次世代モビリティ: 自動運転、自動運転トラック、空飛ぶクルマ、コネクテッドカー、MaaS
- フードテック: 食品保存技術、スマート農業、スマート養殖、MeatTech、ゲノム編集(動植物)
- 先進医療: ゲノム編集(CRISPR-Cas9)、デジタル治療、AI画像診断、医療ロボット、再生医療
- 身体の拡張: VR/MR/AR、ウェアラブルデバイス、パワードスーツ
- 次世代素材: 5Gにおける電子部品・素材
- 次世代通信: 5Gにおける新規ビジネス
- 生成AI・大規模言語モデル: テキスト生成AI、画像生成AI、翻訳テック
- 次世代情報インフラ: 量子コンピューター、非通貨型ブラックチェーン、エッジコンピューティング
- 次世代農林水産: スマート農業、垂直農法、スマート養殖、スマート畜産
- 製造業の自動化・効率化: 3Dプリンタ、マテリアルズインフォマティクス、デジタルツイン
- 建設業の自動化・効率化: 建設テック、スマートメンテナンス
- フィンテック: デジタルバンク、オープンバンキング、P2P融資、クレジットスコア、ロボアドバイザー、インシュアテック、オルタナティブデータ
- ITセキュリティー: サイバーセキュリティ、フェイクコンテンツ検出
- 物流のスマート化: ラストマイル配送、スマート物流
【 B 】Business:共同構築すべき「仕組み・基盤」
1社単独では構築が難しく、業界横断でのルール作りやプラットフォーム構築が必要なトレンド群です。
- モノ・資産のシェア・活用: モノのシェアリングエコノミー、バケーションレンタル(民泊)、シェアオフィス、クラウドキッチン
- 人的資源のシェア・活用: ギグエコノミー、外国人労働者(日本)、ヒューマンクラウド
- 次世代マーケティング: ポストクッキーマーケティング、ソーシャルコマース、プログラマティック屋外広告、リテールメディア、D2C
- 新たな販売形態: サブスクリプション、D2C
- 小売・店舗DX: 無人店舗、リテールメディア、レストラン自動化
- 生活ツールのプラットフォーム化: スマートホーム、MaaS、スーパーアプリ
- テクノロジーによる個別最適化: EdTech、アパレルパーソナライズ、バーチャル・パーソナライゼーション
【 D 】Design:共創の「大義」となる社会課題
協業の「共通目的」となり、あらゆるセクターが連携すべき起点となるトレンド群です。
- 脱炭素エネルギー: 水素エネルギー、燃料電池、スマートグリッド、次世代原子炉、アンモニア、大規模電力貯蔵
- 脱炭素モビリティ: 電気自動車、充電インフラ、燃料電池(燃料電池自動車)
- 製造時の脱炭素化: 気候テック(CCUS)、サステナブルファッション、水素エネルギー
- 脱炭素DX: 炭素管理ソフトウェア、グリーンデータセンター
- サステナブルファイナンス: サステナブルファイナンス、排出量取引
- 資源の循環・ロス削減: バッテリーリサイクル、廃プラスチック、クリーン燃料、電子ごみ、食品ロス管理、バイオプラスチック
- 多様な価値観の尊重: ハラール産業、アニマルウェルフェア、サステナブルファッション、生殖補助テクノロジー、代替たんぱく質、MeatTech、メンタルヘルステック
- 新たな顧客市場: シニアマーケット(日本)、インバウンド(日本)、医療ツーリズム、IR/カジノ(日本)
- 社会インフラ保全技術: インフラ老朽化、防災テック
- ITセキュリティー: デジタル個人情報、顔認識
JOIA流:「協業パートナー」を見つける3つのステップ
では、この「協業の地図」をどう使えばよいのでしょうか。 JOIAが推奨する、パートナー探しのための3つのステップを紹介します。
ステップ1:自社が取り組む「D(社会課題)」を選ぶ
まず、マップのD=Designのリストから、自社が取り組むべき「社会課題」を定めます。 これは、JOIAが提唱する「共通の大義」です。 例:「資源の循環・ロス削減」に取り組むと決める。
ステップ2:必要な「T(技術)」のギャップを特定する
次に、そのDの解決に必要なT=Technologyをマップから探します。 「資源の循環」なら、「バッテリーリサイクル」「バイオプラスチック」「クリーン燃料」などの技術(T)が必要です。 自社に、その技術はありますか? もしなければ、それが「協業すべきパートナー」です。 →技術シーズを持つ大学、研究機関、スタートアップとの連携テーマが見つかります。
ステップ3:必要な「B(仕組み)」のギャップを特定する
最後に、そのTを社会実装するために必要なB=Business(仕組み)を考えます。 リサイクル資源を効率よく回収し、再製品化するには、1社の努力では不可能です。 業界横断の「回収プラットフォーム(B)」や、消費者参加型の「シェアリング(B)」が必要かもしれません。 その仕組みを、自社だけで作れますか? もし作れないなら、それこそが「協業すべきパートナー」です。 →物流企業、小売企業、あるいは競合他社との「協調領域」としての連携テーマが見つかります。
あなたの会社への問い
この協業の地図を広げて、自問してみてください。
貴社が取り組むべきD(社会課題)は何ですか? その解決のために、貴社に「足りないT(技術)」と「足りないB(仕組み)」は何ですか?
その「足りないピース」こそが、貴社のオープンイノベーションの出発点です。
次回は、この思考プロセスを「電気自動車」というテーマでさらに深掘りします。「なぜEVの社会実装は1社では不可能なのか」、そのエコシステム構造を解き明かします。
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