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イノベーション創出人材は「尖り人材」なのか

イノベーション≠技術革新

『イノベーション』

全50ページにおよぶ2023年の「経済財政運営と改革の基本方針」の本文中に24回も用いられたのが『イノベーション』という言葉だ。
>> 経済財政運営と改革の基本方針 2023 について

「新しくする」という意味のラテン語「innovare」が語源で、提唱者のシュンペーター氏が「馬車を何台つないでも汽車にはならない」という名言を残したことからも、既存のニーズに囚われず、深い潜在的なニーズを基に新しいことを生み出すことを意味する。

日本の新聞各社は「技術革新」と訳しが、これは誤訳だった。なぜなら、技術に変化があったとしても、世の中に新しい価値をもたらすとは限らない。 技術や発明は、物質の変化しか生まない。 新しい技術が社会に登場し、社会が変化するかどうか、人々が価値を感じるかどうかは、「人」が決めることだ。それに日本の企業、特に製造メーカーは新しい技術を開発することに躍起になり、この「人々の価値観」を置き去りにし、「失われた30年」という負の遺産を残した。

「技術革新」という表現が日本の経済をミスリードしたと言える。

『イノベーション』の本質的な意味は「新接合」だと捉えられる。新接合としてのイノベーションを創出するには、前例踏襲や固定概念に囚われないマインドが重要だ。時には慣例からの逸脱や成功確率が低いことに挑戦する勇気も必要だろう。

イノベーティブな人材≠尖り人材

平等主義や横並び意識の強い日本社会ではしばしば固定概念に囚われない自由度の高い人材を「尖り人材」と表現する。尖った人という意味するのは分かるが、この表現には差別的な意思が込められている。均一的で協調性の高い人材を賞賛すると同時に、それに当てはまらない人材を揶揄する響きが感じられる。いわゆる村社会における「村八分」が表す意味に近しい。果たして本当に「尖り人材」は、それほどまでに差別的に扱われる必要があるのか。答えはノーだ。では、なぜ差別的に扱われることになったのか。

「尖り人材」という表現を生み出したのは、日本企業の社内政治の強さを表している。

内向きの社内政治がボトルネック

日本企業において、固定概念に囚われない自由度の高いイノベーティブ人材が否定されるケースが多い。平穏な状態を維持しようとする企業側の視点では、そのような人材は邪魔でしかない。ボトルネックとなったのは、そうした日本企業の社内政治の強さである。社内政治の強い企業は内向き傾向で危機感が低い組織風土で事実をベースとした議論を尊重する規範がない。そして、いかなるときも事実をベースに危機感を感じている人材を無意味化してきた。イノベーションは経営者の任期中の売上高に劣後してきた。よって、長期的なイノベーションに向けた投資は行われず、大手企業の内部留保がだぶつく形となった。今後、日本が競争力を高めていくには経営者が長期的視点に立ち、設備だけでなく、人材やITに投資し、その特異な発想を持つ人材とテクノロジーを原動力にイノベーション創出することが求められる。

オープンイノベーションに必要なレジリエンス

「尖る」という表現を「特異」に換言すれば、本質的な意味となる。他の人材と比べて尖っているかどうかではなく、他の人材にはない「特異性」を持っているかどうかで捉えるのだ。そして、彼らの特異性はいつも「安定」「成功」ではなく「不安定」「失敗」を繰り返すことから得られてきた。それは「調整」という機能ではなく「挑戦」という機能を果たす。日本企業人事評価におけるもっとも重要な能力は「調整力」だ。しかし、イノベーションが求められる時代において、この能力は陳腐化する。代わって必要とされるのは「挑戦力」。不確定性の高い状況下でも、しなやかに乗り越え続けようとするマインド、それを可能にする経験学習スキルが「挑戦力」と言えよう。それは個人のレジリエンスであり、その集合体が企業としてレジリエンスであるとも言える。

特異性の高い人材のレジリエンスは企業の原動力である。

オープンイノベーションに必要な要素

しかし、ひとつだけ問題がある。このような人材は企業内にあまり生息していないという事実だ。いつもマイノリティであるがために虐げられている。その状況を変えるには人材戦略が必要となる。そして、それを支えるパートナー、プラットフォーム、プログラムといった基盤を準備しなければならない。パートナーとは、すでに多くの修羅場経験を経て経営リテラシーや新規事業開発を経験してきた人物による伴走支援を指す。この時、注意したいのは論理武装が得意だが経営リテラシーが高いか不明確なコンサルタントが存在していることだ。優秀そうなコンサルタントが実際は使えないという話は枚挙に暇がない。プラットフォームとは、イノベーション創出人材が集まる場だ。イノベーションの社会実装に向けた実験場と言ってもいい。しかし、ここにも注意点がある。多くの「イノベーション・ハブ」は形式的な場でしかなく、イノベーションは創出されていないという事実だ。ここで必要なプログラムは、複数の企業で合意形成を図ることは並大抵のことではないため、発散される意見を集約し、合意へと向かわせるプログラムである。このようなイノベーション創出基盤を準備し、日本の経済を牽引するイノベーティブ企業がひとつでも多く現れることを願っている。

イノベーション創出基盤を整備した企業が、日本を代表するイノベーティブ企業となる。

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