今なぜ競争戦略なのか
経営企画の機能不全
企業は市場の中で完全独占でない限り、競争が強いられる。そこには競合他社との競争があり、企業が成功するかどうかは競争に勝つかどうかによって決まる。一方で共創活動というものがあり、競争が必要ではないという意見もある。これはこれで好ましいが、共創活動をすることで競争優位に立つということで、共創自体から抜け出すことはできない。むしろ競争するために共創活動を行うという表現が正しい。
その競争において企業が戦略を策定する場合、多くの経営企画部は、目標設定や予算計画に終始している。彼らが実際にやっているのは売上高や利益といった財務指標がどうなるかを予想し、予想通りの実現を目指す活動である。要するに一種の予算計画を立てているのであって、重要課題に取り組もうとはしていない。計画の過程で幅広い問題を取り上げることはあっても、すぐに議論の中心は財務目標に戻ってしまい、続いて予算の割当という段取りになる。彼らは下記の困難な課題から目を背け続け、業績に右往左往する。なぜなら、戦略とは困難な課題に答えを出す行為であり、競争に勝つために不可欠であり、リスクが伴うということが前提となる。ここで、論理的思考を持つビジネスパーソンは分解を始める。要素に切り分けることで解決の糸口を見つけようとするのだが、そのような思考を持たない営業現場、製造現場から経営企画部門に移ってきた人々は製造コストや営業成績を追いかけるように本質的な議論が出来ない。この状態を経営企画の機能不全と呼び、日本の多くの企業の現状である。その原因は何が困難性を高めているかを理解していないことにある。戦略は組織の運命を決するような重要かつ困難な課題であるが、その困難性は下記の4点により高まられており、それを乗り越えるだけの能力を持ちさえすれば、経営企画の機能を果たすことになる。
- 問題の定義が明確にできない。
- 複数の競合する目標がある。
- 複数の解決策が選択肢として考えられる。
- 取ることができる行動と結果の関係に不確実性がある。
なぜ、自社の経営企画には優秀な人材が入らないのだろうと首を傾げる前に採用者が視座を上げ、世界水準の経営学を理解する必要がある。経営企画の機能の高度化に優秀な人材をと外部から採用したとしても、採用担当者は現状と同種の人材を選ぶ傾向にあり、困難な課題に答えを出す行為に立ち向かう人材を確保すること極わずかだ。そのような論理性と気骨を持つ人材は、のらりくらりとやり過ごしたり、経営幹部も顔色を窺って調整したりような組織風土とそぐわない。もはや世界水準の経営理論を理解している人材は、日本の企業で働くことに縛られる必要さえない。採用時に簿記2級を持っているかどうか確認したり、既存の事業計画が理解できるか確認したりという質問のレベルの低さに閉口してしまうだろう。
経営企画への誤解
経営企画部門は経営を企画する機能を求められる。この経営とは企業活動そのものであり、何を企画するのかと言えば、経営戦略つまり競争戦略を企画するのである。ここに経理財務の知識は予備知識でしかない。よって簿記ができるから経営企画ができるという考えは極めて愚かと言える。これを採用時にしつこく確認することは、経営企画の機能を理解していない人だということ、それが露呈した場合に外部の優秀な人材は逃げていく。
- 経営を経理や財務だと誤って理解していること
- 経営を文系、理系で区別しようとすること
戦略への誤解
戦略は計画でもなければ、目標設定でもない。戦略への誤解が決定を先延ばしにしたり、混乱を招いたりしている。困難を目の当たりにしたとき、凡百の経営企画部門の人々は、その要因を箇条書きに列挙して解を得ようとする。優れたビジネスパースンは、要因間の因果関係についての論理にまで踏み込み、全体が動き出すメカニズムを解明しようとする。
競争戦略とは
競争。ハーバードビジネススクールのマイケル・ポーター教授は競争戦略とは競争が発生する場所である市場において、有利な競争的地位を探すことと表現している。競争閃絡の狙いは、競争状況を左右するいくつかの要因をうまくかいくぐって、収益をもたらす確固たる地位を樹立することに他ならないとしている。つまりは、企業が成功するか失敗するかを決めるのが戦略である。企業の活動が正しく行われ、イノベーションを生み出し、それを支える強固な組織など、企業の業績を向上させるのは戦略による成果である。の競争戦略を策定する際に、そこには2つの問いが存在する。
- どのように長きに渡って収益を生み出すか、その要因は何か
- 自社の競争優位性が強いか弱いかを決める要因は何か
ここで大きな困難な課題にぶち当たる。市場や競合が変化している限り、この競合優位性をも変化させなけらばならない。また、自社の戦略が市場や競合を変化することもある。このような変化が戦略策定を難しくしている。しかし、そのような困難な課題にも立ち向かい、答えを出し続けることが重要だ。持続性な競合優位性はないものか、競合優位性の源泉はないものかという探索的な思考により、この2つの問いの答えを出そうとするとどうだろう。それがコア・コンピタンスというもの、競合優位性の源泉だ。これは企業がステークホルダーに提供する価値の源泉でもある。これを戦略のコアに据えていくことは大いに有効な戦略策定の手段と考えられる。価値というのはコストよりも便益が大きいときに生み出されていると言える。ここで選択肢が2つ生まれる。
どのように競争戦略で勝つのか
2つの競争戦略
どのように長きに渡って収益を生み出すか、その要因は何か
企業がどのように長きに渡って収益を生み出すかを考える前に市場がどのように長きに渡って収益を生み出すかを考える必要がある。これは企業が市場に依存している限り、企業は市場というものから逃れられないからである。市場の持つ収益力が企業の収益性を決める重要な要素とも言える。市場の魅力度がどの程度か、そして、収益力を左右する要因は何かという問いに答えを導いていく。
- コスト・リーダーシップ戦略
- 差別化戦略
市場の陳腐化リスク
自社の競争優位性が強いか弱いかを決める要因は何か
ほとんどの市場では、その平均的な収益性とは関係なく、ある企業がずば抜けた収益性を誇っている。魅力の高い市場にいても競合優位性がなければ充分に収益を生み出すことはできない。それとは反対に、競合優位性が高くとも属する市場に魅力がなければ競争戦略として意味をなさない。市場の魅力度も優位性の強さも時代と共に変化し、動く。新たな市場が生まれて魅力度が高まったり、既存の市場の魅力が突然失われたりする。何かしらの事件をきっかけに昨日まで高かった競合優位性が一気に失われたり、イノベーションにより目まぐるしく競合優位性が高まったりする。これらを市場と競合優位性の陳腐化リスクと言える。だからこそ、競争戦略は環境が変化しても適合し続けるように策定されるだけでなく、その環境を自社にとって有利なものに変えるものにする必要があるのだ。
結論
コスト・リーダーシップ戦略と差別化戦略については、今後、個別のコンテンツで詳しく解説していく。ここでは、企業の経営企画の機能不全が要因で戦略策定が行われない場合、魅力的ではない市場で競合優位性を築いたり、魅力的な市場の中で競合優位性を確保できなかったりすることに至る。この要因のすべては持続的な競争戦略策定の不在に帰結する。競争戦略策定の不在を回避しようと外部人材に頼る企業は実に多い。もちろん、採用が出来さえすれば外部人材を有用することは選択肢としてある。しかし、経営学への理解水準に恐るべきギャップが生じると、その採用が双方に不幸な結果となる。直ちに従業員に簿記の資格を推奨したり、それを保持している人をもてはやすことは止め、経営学の扉を叩いてほしい。
今後は、コスト・リーダーシップ戦略、差別化戦略を理解し、競争戦略を策定していくこととしよう。
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