ジェネリック戦略の意味
ジェネリック戦略とは、コスト優位性を追求して、低価格品を提供して市場シェア拡大を図る「差別化戦略」、他社と異なる製品・サービスの提供を追求する「差別化戦略」を包括した戦略フレームワークである。
ジェネリック戦略の概要
「コスト主導戦略」と「差別化戦略」のどちらを選択すべきか
ジェネリック戦略の核心は、ではコスト主導戦略と差別化戦略のどちらを追求すべきかということだ。ジェネリック戦略がSCPから落とし込まれていることを踏まえれば、答えは明らかで、「自社の競争環境を完全競争から離し、独占に近づける戦略」を目指す。
その目的を達成しやすいのは、明らかに差別化戦略だ。完全競争とは、企業同士が同じソリューションを提供する状態だ。逆に言えば、ソリューションが差別化されているほど、競争環境は完全競争から離れていき、その収益性は高まりやすくなる。
自社と同業他社を製品セグメントごとにグループ化する考え方の「戦略グループ」でも同じことが言える。グループ間の移動障壁が高い方が収益を守れるのだから、自社は同業他社と異なる製品を提供すべきということになる。
一方、コスト主導戦略を追求すると、ライバルとの価格競争に陥る。それは競争環境を完全競争に近づけるので、基本的に望ましくない。しかしながら、もしその企業が圧倒的なコスト優位を持って、他社を押さえ込んで市場シェアを大きく取れるなら、競争環境はむしろ独占の方向に向かうことになる。すなわち、「他の条件を一定とすれば差別化戦略が望ましい」が、「コストで圧倒的に勝てる条件が揃っている時に限り、コスト主導戦略も追求する価値がある」というのがSCPの含意となる。
その代表例はYKKグループだ。同社は長い間、グローバルな製造資本と人的資本を活用して「規模の経済」を実現し、コスト主導戦略を追求してきた。先に述べたように、規模の経済は参入障壁を高める。さらに同社は、大手ライバル企業が少ないエリアに先駆的に参入し、低価格戦略によって独占的ポジションを取っている。
このように、YKKグループのコスト主導戦略は、「先駆性」「グローバリズム」といった要素と一貫性により世界のシェア90%以上という驚異的な市場シェア率を誇り、成功してきた。逆に言えば、「このぐらい一貫した条件が揃わない限り、コスト主導戦略は安易に追求してはならない」とも言えるだろう。
ジェネリック戦略の概要への疑念
「コスト主導戦略」と「差別化戦略」は両立できるのか
コスト主導戦略と差別化戦略は通常、同時に追求することは難しい。しかし、例外も存在する。サムスン電子の半導体事業はその一例で、新世代製品の開発に大規模投資を行い、市場に最初に投入することで差別化を図った。一方、旧世代市場では競合他社よりもコストを抑え、市場シェアを広げた。この「両取り戦略」は半導体の特殊性、つまり「ムーアの法則」があるからこそ成立する。特殊条件がない業界では、両取り戦略は難しいと言える。
一時的な競合優位性
なぜ、ジェネリック戦略が必要かと言えば、企業の持続的な競合優位性につながると考られているからだ。持続的な競合優位性とは他社と比べて10年以上高い業績を安定して上げることと仮定できる。差別化戦略によって他グループとの移動障壁を高められれば、その企業は高い収益を安定して稼ぎ出すことができる。コスト競争戦略で競争環境を独占に近づけた場合も同様だ。ところふが近年の実証研究から、この持続的な競争優位という前提そのものが現代のビジネス環境に当てはまらない可能性が指摘されている。なぜそのような結果になるかと言えば、それは規制緩和、グローバル化、ITの発展などにより、以前より著しく競争環境が激しくなっているからだろう。SCP理論やジェネリック戦略が通用しなくなるとすれば私たちは何を道標にすればよいのか。ダイナミックケイパビリティなど、SCP理論に代わる考え方も提示され始めている。私は、どれだけ時代が変わろうと、経営理論を理解して「思考の軸」を持っていることで、いつの時代でも通用する戦略を導き出せると考えている。SCPフレームワークの詳細を覚えることよりも、背景にある理論を理解し、「思考の軸」を作ることが重要だ。
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