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科学技術・イノベーション白書 | 文部科学省


令和5年版科学技術・イノベーション白書とは

イノベーション白書の中で「Society 5.0の実現のためにイノベーションの継続的創出こそが、自律的な地域における社会的課題の解決の要となって、ひいては地方創生の実現に貢献するものとなる。また、世界における産業構造が資本集約型から知識集約型へ急速に変化しつつある中で、価値創造の源泉となるイノベーションの継続的創出が不可欠であり、この変革によってグローバルな価値創出を可能とする地域産業構造の再構築を図ることが求められている」としている。そのような危機感のもと、イノベーション白書において、量的にも質的にも十分な研究結果が発表されることが望まれる。

現在は、オープンイノベーションを加速させる拠点である「ナノ医療イノベーションセンター」があり、文部科学省のCOI STREAMに公益財団法人川崎市産業振興財団を中核機関として採択された「スマートライフケア社会への変革を先導するものづくりオープンイノベーション拠点」の実働拠点となっている。そこでは、「いつでもどこでも誰もが心身や経済的負担がなく、社会的負荷の大きい疾患から解放されることで自律的に健康になっていく社会」を掲げ、全ての医療機能が人体内に集約化される「体内病院」の構築を目指されている。

また、量子技術に関わるヒト・知識・情報が集い交わる産学官の共創拠点「量子イノベーションパーク」の実現により、我が国における量子コンピューティングのエコシステムの構築を目指していることが報告されている。

科学技術・イノベーション基本計画とは

科学技術・イノベーション基本計画では、「科学技術には、20 世紀後半から爆発的に拡大した人間活動に由来する地球規模の危機を克服するための知恵が求められている。自国の競争力強化のための国内改革と科学技術への未来投資の拡大を加速していく」としている。しかし、まだ「第6期基本計画に連動した政策評価の実施と統合戦略の策定」という内容が計画となっている状態である。計画の計画を立てている間は大きな成果を期待することは難しいだろう。

一方、科学技術・イノベーション政策に関連が深いCSTI、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部、知的財産戦略本部、健康・医療戦略推進本部、宇宙開発戦略本部、総合海洋政策本部等の司令塔会議が進める政策を横断的に調整する司令塔機能を強化することが求められている。このため、内閣府設置法の改正により、内閣府に「科学技術・イノベーション推進事務局」を設置するとされており、司令塔機能の実効性確保を目指す取り組みには具体性が確認されるため、期待が持てる。


イノベーションと科学技術の関係性

内閣府は「科学技術・イノベーション政策」の中で、「科学技術には、20 世紀後半から爆発的に拡大した人間活動に由来する地球規模の危機を克服するための知恵が求められている」としている。私は科学技術とイノベーションの関係はどのようなものかという違和感を感じる。「科学技術・イノベーション政策」と聞くとあたかも、科学技術でイノベーションが発生するかのように捉えられる。しかし、イノベーションの歴史を紐解くと、新しい科学技術によってイノベーションを意図的に生み出だされたのではなく、科学者ではない人々が自由に発想し、実験し、冒険できるときに自然発生的に生じていることが分かっている。多くの事例は「人類とイノベーション」マット・リドレー著に記載されている通りである。企業がイノベーションを起こそうと考えるのであれば、科学的なアプローチは不可欠であるが、科学者を招き入れる必要もなければ、大学や研究機関に頼る必要もない。誰もがイノベーションを生み出せるフレームワークもなければ、どのようにイノベーションが生み出せるかの問いに明確に答えた社会科学者も経済学者もいない。もし、この方法を利用すればイノベーションが生み出せると言っているものがあるとすれば、新手の詐欺か何かだ。ただ、存在しているのは、人類の持つ何かと何かが新接合したときにイノベーションが生み出されたというファクトだけだ。科学技術とイノベーションに相関関係は認められるが、因果関係は認められない。その意味で「科学技術・イノベーション政策」は国民や関係者をミスリードしているとも言える。


イノベーションと経済学の関係性

イノベーションは様々な学問で議論されるが、社会科学の経済学で取り扱われる主題である。そして社会科学は「社会の真理を探究すること」と言える。真理の探究には頑強な理論を構築し、その理論の確からしさを実験し証明していくことが重要である。物理学や化学で実験をするのと同様に社会科学でも実験を繰り返し、真理に近づこうと探求していく。そこで扱われるイノベーションという主題も当然のことながら、実験を繰り返し、その法則性を導き出そうとする。しかし、ここに問題がある。社会とと人類が構成するものである以上、法則性はたちまち不確実なものとなる。人類の思考はあらゆる法則性から解放され、自由に何かと何かをつなげたり、切り離したりしながら、想像を超えたものを創造する。あらゆる理論と実証を超えてイノベーションは生み出される。その意味においてはイノベーションは社会科学や経済学からはみ出して、人類学や芸術などと結びつこうとする不可解な主題である。


イノベーションと経営の関係性

事業環境が複雑化する中、企業は、社会のサステナビリティを経営に織り込むことを通じて、長期的かつ持続的に成長原資を生み出す力を強化していくことが求められている。しかし、具体的にどのような事業活動が社会のサステナビリティに資するか、それらの活動がどのように企業価値の向上につながるかについては、国際的にも多様な議論が展開されており、何にどのように取り組めばよいか、多くの経営者は迷いながら暗中模索なのが現状である。また、サステナビリティ課題の多くは、これまで経済的合理性が見出せなかったからこそ取り残されてきた課題であり、これらの課題解決を通じて利益を創出することは、本来的には困難を伴うものである。だからこそ、科学技術による発明(インベンション)のみならず、革新的な価値創造(イノベーション)の実現により、課題解決と経済的合理性との両立を可能とする価値創造モデルの構築が重要である。したがって、サステナビリティ経営の中でイノベーションは不可欠な要素であると同時に、それをどのように生み出すのかを仕組み化する上では経営課題でもある。もし、仕組み化に成功した企業があれば、イノベーションを生み出す能力はコア・コンピタンスとなり得る。いずれにしても計画を立て、それに則して実行しようとする経営の中では扱いにくい主題であることは間違いない。


結論

世界的にもに日本経済においても、各企業においてもイノベーションが求められていることは間違いない。企業においてイノベーションを生み出す能力は「経済的価値」「希少性」「模倣可能性」「組織」といった要件を満たすコア・コンピタンスにもなり得る。そこには複雑性もあるため、「固着性」「異質性」もあるため、持続的な競争優位性につながると考えられる。しかし、人間で構成される社会科学における経済学において、イノベーションという主題はあまりにも困難性が高いものであると言わざるを得ない。特に日本の大手企業の画一的な組織にはイノベーションは生まれにくく、かといって欧米のようなイノベーションの在り方を取り入れれば、たちまちイノベーションが発生するような単純明快なものでもない。ひとつ言えるのは、社会の一部では、イノベーションの困難に嬉々として立ち向かうイノベーターが存在しているならば、その人をなくしてはならない。「Winny事件」のようにイノベーターを逮捕し、イノベーションを生み出す時間と機能を奪うようなことはあってはならない。反対に言えば、イノベーションの困難に嬉々として立ち向かうイノベーターを開放し、自由な実験の場を提供することは社会の重要な役割であると考える。


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