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破壊的イノベーション理論

今回は破壊的イノベーション理論について解説する。


破壊的イノベーション理論とは

破壊的イノベーションとは、技術革新やアイディアによって、既存の事業の安定した状況を打破し、その事業の業界構造を大きく変化させることである。これは、20年前、ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授によって提唱された。彼は、破壊的イノベーションの理論は既存製品よりも性能面は劣るものの、低価格や簡単操作、小型といった特徴を持つ新規参入の製品が新たな顧客を獲得し、既存製品を駆逐してしまうという「破壊」を論じた。

現在、既存の概念にとらわれず、新たな発想を積極的に取り入れることで、新製品や新サービスを生み出していく破壊的イノベーションの重要性は増している。企業には、これまでに存在していた製品やサービスの価値を低下させ、まったく新しい価値を創造することが求められている。さらには、既存の市場や顧客というよりも、まったく新しい顧客に向け、新しい市場を創造するようなイノベーションは成長を果たす企業の必須条件とまでなってきた。今一度、破壊的イノベーションの理論を正しく理解し、企業の持続的な成長戦略のコアに位置付けてはいかがだろうか。


破壊的イノベーションの誤解

破壊的イノベーションは、20年前に大きなムーブメントを引き起こした。しかし、この理論は大きな称賛を得たゆえに、誤った解釈や適用が散見される。まともに論文を読まずに「破壊」を論じる人々があまりに多いのである。自分たちの目論見にとって都合のいいように「イノベーション」の概念を持ち出そうとして、「破壊」という言葉をいい加減に使っているのが原因である。ここでは、破壊的イノベーションと混同されている言葉を用いて、その違いに焦点を当てていこう。

ブレイクスルーとの違い

破壊的イノベーションは多くの人が手に入れられる製品を創出することで、より多くの人がその製品にアクセスするようになり、市場が拡大し、新規企業が既存企業を打倒する。これは製品の高い性能による単なるブレイクスルーではない。例えば、1960年代、トヨタがアメリカ市場で発売した自動車は、大学生でも買えて、車の市場自体を拡大させた。GMやフォードの経営陣は、大型車と小型車の利益率を比べ、トヨタと競争する意味はないと考えた。これは破壊的イノベーションであった。

持続的イノベーションとの違い

持続的イノベーションは、 既存の市場において顧客に求められている価値をさらに向上させることでイノベーションを起こすことを指す。現在のイノベーションの多くは持続的イノベーションだが、大きな成長は生み出していない。持続的イノベーションは何かを何かに置き換えるもので、成長は小さいのだ。

効率型イノベーションとの違い

効率型イノベーションとは、より大量のものを、より低価格でつくること。効率化は雇用を削減し、同時に企業のキャッシュフローを改善する。多くの企業は生産性という指標で効率型イノベーションを目指すが、市場を破壊するほどのインパクトを生み出せない。

破壊的イノベーションが起きるためには条件がある。それは、既存顧客が既存の製品やサービスに満足することだ。
一度満足した顧客は、次の改良品には興味を持たない。性能の向上よりも、アフォーダブルとアクセサビリティを求める。ここで、持続的イノベーションによる技術進化そのものが、破壊的イノベーションの原因となるのは、、「イノベーションのジレンマ」と呼ばれている現象だ。


イノベーションのジレンマ

イノベーションのジレンマとは

既に特定の分野で成功している企業は、既存のサービスや製品をより良くすることに注力するが、一方で新しい発想による技術やサービスに、あまり目が向けられなくなる側面がある。持続的イノベーションのプロセスが既存事業を順調に成長させているので、そのまま維持することを選ぼうとするところに生じる。クレイトン・クリステンセン氏はイノベーションのジレンマが生じる理由を5つ挙げている。

イノベーションのジレンマの原則

大手企業の多くはイノベーションのジレンマを抱えている。恐ろしいのは、大手企業の決裁権を持つ者がこれに無自覚であるということだ。しかし、そのような人材がトップマネジメントに君臨する時代は終わりを告げようとしている。イノベーションのジレンマが何で、それが何を意味するのか理解していこう。

  • 企業は顧客と投資家に資源が依存している
  • 小規模な市場では大企業の成長ニーズを解決できない
  • 存在しない市場は分析できない
  • 組織の能力は無能力の決定的要因になる
  • 技術の供給は市場の需要と等しいとは限らない

企業は顧客と投資家に資源が依存している

これは、当然のように聞こえるかもしれない。これはステークホルダーに価値を提供するためには、顧客と投資家に帰する資源とは、異なる能力を持たなければならないことを示唆している。例えば、顧客基盤や財務資本は依存度の高い資源と言えよう。

小規模な市場では大企業の成長ニーズを解決できない

市場規模が小さいという理由で、その市場での事業開発をしない、もしくは大きな市場を狙った事業開発を優先する事象がある。その市場にニーズがあっても、そこに機会を見出さない大手企業は機会を逃し、それが同時に脅威となる。

存在しない市場は分析できない


なぜ、過去のことしか分析対象になりません。つまり未来の市場は分析できないので、顕在化している市場への投資が優先される。まだバックキャスティング思考で市場を分析する企業はマイノリティであるが、今後、バックキャスティング思考は広がりを見せるだろう。

組織の能力は無能力の決定的要因になる


大きな組織ほど既存ビジネスに対して最適化されているため、それが弊害になる。大手企業が技術力で世界の市場を牛耳ってきたとしても、スタートアップがあっという間に市場を席捲することが起こってきた。図体が大きすぎて、手足が思うよに動かない巨大なマンモスのように絶滅の危機に立たされている。

技術の供給は市場の需要と等しいとは限らない


性能を高めることと顧客ニーズは一致するとは限らない。新しい技術が顧客ニーズを解決するとは限らない。多くの製造業の技術職の者は、このジレンマの意味が理解しにくいようだ。また、組織が分業化されている中で、技術部門は顧客が求める機能開発ではなく技術開発を進める。今後、求められていない過剰な機能を持つ製品を開発し続ける企業が淘汰されていくだろう。技術開発部門などの部門名は目的より手段が先行している場合が多い。顧客のニーズに適合した価値ある製品やサービスを開発するのが職務であって、技術開発が目的化すると自己満足に陥ってしまう。


破壊的イノベーションの方法

破壊的イノベーションの必然性

既に事業で成功している大手企業にとっては、新しい発想による技術やサービスは、その時点では未知数であり、魅力がないように見える。さらに、そのような技術は「既存の市場を混乱させ、すでに成功している事業の足を引っ張るリスクもある」と判断される。企業は冒険を避け、守りの姿勢をとるようになり、現状の商品の改良のみに終始し、結果的に新たな需要や未知の市場に目が向かなくなっていく。

このように「イノベーションのジレンマ」は、成功している企業ほど、合理的に判断した結果、破壊的イノベーションの前に市場への参入が遅れてしまう可能性を指摘したものだ。合理的な判断ということが最も求められると信じて疑わない経営者は、企業を成長させるために、この要点を押さえておかなければならない。


破壊的イノベーションの種類


破壊的イノベーションには「ローエンド型破壊的イノベーション」と「新市場型破壊的イノベーション」の2つがある。どちらも「業界の当たり前」を破壊することによって、マーケットリーダーとなることを可能とする。

ローエンド型

ローエンド型破壊的イノベーションとは、今ある製品やサービスよりも低価格でシンプルな商品・サービスを提供するイノベーションのことで、アフォーダブルとアクセサビリティを高める。これはコスト・リーダーシップ戦略と同様に破壊力はあっても持続性がない。一時的に市場を席捲することが目的であれば、一つの選択肢ではあるが、持続可能性な社会の構築が求められる現代、望ましい選択肢だとは思えない。

新市場型

新市場型破壊的イノベーションは、既存の市場に新たな技術やアイディアを持ち込み、まったく新しい価値を創造し、ニーズを作り出すイノベーションのこと。不確実性が高い現代、新たな価値創造による新規市場を生み出すことは企業が求められる最も重要な要件と言えよう。


破壊的イノベーションの方法

潜在的な顧客ニーズに耳を澄ます

付加価値付与による顧客の満足度に限界が生じている、つまり、これ以上顧客満足度が向上しない「過満足状態」に到達している分野や顧客層を探す方法がある。インタビューから潜在的ニーズを導き出すのは難しいだろう。なぜなら、潜在的ニーズというは無自覚なものなので、言語化してすぐに答えられるものではない。ここでは、無消費という状態を探す。無消費とは、主に4つの制約(スキル・資力・時間・アクセス)によって消費が行われていない状況のことだ。無消費を解消する手段を構築できれば、新たな消費が生まれ、市場を開拓することができる。

既存とは異なる小さな規模の組織にする

企業の決裁権を持つ者に「既存事業の足を引っ張るリスクもある」や「市場が小さいから止めた方がいい」と判断されれば、破壊的イノベーションは起き得ない。よって決裁権を既存事業と異なるところに移譲する必要がある。出島組織や子会社設立など、各社が工夫を凝らしているのは、何とかして決裁権を合理的判断しかしない者から剥がさなければならないという背景がある。イノベーションのジレンマで触れたように大きな組織ほど既存ビジネスに対して最適化されているため、それが弊害になる可能性が高いため、小さな組織を形成して、潜在的なニーズに対するイノベーション創出活動をするのが望ましい。


結論

現状維持では衰退することが予測され、破壊的イノベーションの必然性が理解できるだけの理解力があるならば、さらなる成長を目指し、破壊的イノベーションを起こせばよいというだけである。そのようなシンプルで明快なことが出来ていないのであれば、こんなに愚かしいことはない。私たちは、破壊的イノベーションの理論が示すことを理解し、誰にどのような価値を提供するのかに向き合わなければならない。

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