はじめに
企業、政府が接近する中、それが対立軸ではなくエコシステムを形成することが望まれ始めた。そして、すべてのセクターにおいて重要となっているのは「インパクト」という言葉である。
1990年代は、コンサルティングファーム出身者によってロジカルシンキングの重要性が叫ばれ、MICE等をはじめとする論理性が重要とされた。2010年には「イシューからはじめよ」が発刊され、イシューの特定ということが最重要となった。それ以降にはデザイン思考の重要性が叫ばれ、顧客の潜在的な課題を共感しながら解決するアプローチが求められた。最近では、アート思考により現状を覆すところから、新たなものを生み出すことが求められている。
課題とはあるべき姿と現状とのGAPであり、あるべき姿がない限り、問題も課題も存在しない。言ってみれば、ロジカルシンキングもデザイン思考も存在し得ない。現状を覆すアート思考はあるべき姿を必要としないが、文脈も持たない。「インパクト」はイシューの特定に留まらず、あるべき姿を提示することで人々を巻き込む。現在、ビジネスの文脈でも、社会課題解決の文脈でも、あるべき姿を設定し、理想と現実のGAPからイシューを特定し、インパクトを提示することで人々を巻き込みながら、イシューを解決する思考が求められていると言えよう。
ESGの限界
ESG(環境、社会、ガバナンス)の取り組みは、企業が社会的な責任を果たすための重要な指標となっているが、その限界も指摘されている。特に、短期的な利益追求の観点から見ると、ESGの取り組みは企業価値のディスカウント抑制に留まり、成長期待に応えきれていないとの見方がある。また、ESG評価の不十分さを指摘する声もあり、現状の業界標準に照らした相対評価に過ぎず、本来求められるべき水準のサステナビリティを阻害する懸念が指摘されている。
その一方で、「インパクト」は、環境や社会に対して生み出されたプラスの価値を意味し、企業が社会的な価値を創出するための新たなアプローチと言える。ESGが企業価値のディスカウント抑制、すなわちステークホルダーに対する信頼性訴求を担うとすれば、インパクトはプレミアム創出、すなわちステークホルダーに対する成長期待の醸成を担うものとして位置づけられる。
サステナビリティが一定成熟し、良くも悪くもスタンダードが出来つつある中で、それらに囚われないパーパスを定義し、社会変革に繋がるようなイノベーションを興すことで「インパクトプレミアム」の創出を目指すことが、今日求められる企業価値創造経営において不可欠な要素となっている。
これらの動向は、企業が社会的な価値をどのように創出し、その価値をどのように評価するかという問いに対する新たな視点を提供している。これからの企業経営において、これらの視点をどのように取り入れていくかが重要となる。
「インパクト」を生み出す方法
企業経営に「インパクト」を取り込み、「インパクトプレミアム」を創出するための3つのポイントは以下の通り。
- 「インパクト」評価の活用目的の明確化
企業は経営管理・意思決定に「インパクト」を活用するか、ステークホルダーコミュニケーションなどの対外訴求に活用するか、その目的を明確にする必要がある。
- 自社に適合した「インパクト」評価項目の特定
目的が明確になったら、どの「インパクト」をどのように評価するかを検討する。この際、インパクト加重会計(IWA)やValue Balancing Alliance(VBA)などの既存のフレームワークを参考にすることができる。ただし、これらの手法は業界全体のインパクトを算定・可視化することを目指しており、特定の業界や製品の特性を反映するのは難しい場合がある。そのため、自社の事業や製品が社会に及ぼす「インパクト」は何か、その固有性に着目し、自社独自のインパクト項目を設定し、その測定・評価・継続的な創出に向けた活動を進めることが重要。
まとめ
これらのポイントを踏まえ、企業は「インパクト」を経営に取り込み、「インパクトプレミアム」を創出するための戦略を策定することが求められている。このプロセスは、企業が社会的な価値を創出し、その価値を評価する新たな視点を提供する。
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