イノベーションへの認識の甘さ
イノベーションは、企業成長および価値創出のKFSであり、欠かすことのできない経済発展の源泉であり、多くの企業のコア・コンピタンスとなり得る。1980年代後半の日本こそ No.1だと謳っていた時代においては、日本は世界の経済を牽引してきた。しかし、現状において、世界における日本の競争力は地に落ち、目も当てられない。では、果たして日本は、イノベーションを創出できなくなってしまったのだろうか。
日本オープンイノベーション協会においては、この論点に対して、日本はやり方次第では日本が世界における競争力No.1を実現できるという可能性を検討し、日本においてイノベーション創出を目指す各主体に対して、取り組みを総合支援することを狙いとしている。結果的に日本人が母国へのアイデンティティを取り戻し、豊かな日本というビジョンを長期的に見据えておきたい。この目的とビジョンを踏まえ、日本の企業、組織、経営者、イノベーション創出に向け取り組む主体一人ひとりが、今後より効果的にイノベーションを創出できるようにするためには、「そもそもイノベーションとは何か」という点について、より明確に認識する必要がある。イノベーションとは、その創出される製品やサービスそのものなのか、それとも革新的な製品やサービスを創出するための手段なのか、あるいは製品・サービスを創出するための体制や考え方なのか、その解釈は取り組む主体によって漠然とした「イノベーションは必要だ」というイメージから取り組んでいる場合もあると推測される。まずは、当コンテンツ記事のテーマである「オープンイノベーション」について、以下の問いについて考えることから始めよう。
- オープンイノベーションを行っている企業はイノベーティブか
- イノベーティブな企業は少なくともオープンイノベーションを行うべきか
- イノベーションを創出するためにはオープンイノベーションは必要不可欠か
- オープンイノベーションを行っていればイノベーションは創出できるか
これらの問いに対して、「どちらともいえない」と思われる方がほとんどではないか。その認識はもっともであり、少なくともオープンイノベーションは、あるケースにおいては効果的な手段といえるが、イノベーションを創出する上での必須要件でもなければ、唯一無二の手段でもない。これを示す根拠として、近年、知財戦略の1つとして認知度が高まっている、「知財オープンイノベーション戦略」と共通の概念が適用できるものと考える。つまり、オープンイノベーションは、創出したい価値を実現するにあたって、自社の技術やリソースを活用することを前提としつつ、足りない技術やリソースに関して「自社のソースで行うべきか」、「他社から拝借した方が良いか」を検討することと同義である。あくまでも自社の成し遂げたいことが前提にあり、その実現手段として「外部調達」や「外部との連携」が存在する。どのような場合でもオープンイノベーションをすれば良いかといえばそうではなく、自社の利益、有するリソースの有効活用、足りないリソースを補完するための効率性、補完するリソースの品質など多様な要素を踏まえて、行うかどうかを判断するものである。間違ってもメーカーが商社に製品販売を依頼するような関係性、自社のアセットを活用することを前提にスタートアップ企業の事業案を考えさせるプログラムのような自社都合優先になってはならない。それはオープンでもなけばイノベーションでもないことは肝に銘じていただきたい。
イノベーションへの誤解
昨今のオープンイノベーションの事例では、「自社で有していない技術やリソースを調達するため」ということに立脚するものが多い。「日本経済の視点、持続的社会の実現という目的意識を持たず、自社の企業価値を高めるために必要なリソースを補完する」という矮小なオープンイノベーションも散見される。例えば、オープンイノベーションを推進している企業において、「自社の技術では限界があるため、スタートアップ企業などの有能なシーズ技術を紹介してもらい、そこから何ができるかを社内で議論する」という事例を垣間見ることがあるが、そこには、肝心要の「はたして何を実現したいのか」という問いが不在だ。また、もう1つの「うまくいっていない事例」として、イノベーションを「課題解決の手段」として、特に「自社ではできないことを行うための手段」として捉えている点があげられる。もちろん難易度の高い課題解決を目的とした取り組みによってイノベーションが実現されたケースもあるが、それよりもまず「自社だからこそ創出できる価値」を前提とした検討がなされるべきである。本質的には「自社だからこそ創出できる価値」としてコア・コンピタンスが明確化していないのであれば、オープンイノベーションを語ることも始めることもできない。このような対話の中で「パーパス」という言葉がよく用いられるが、パーパスとは「その企業・組織が存在する意義」、「社員や従事者がその企業・組織に所属する目的・理由」とも考えられる。この意味における「パーパスのない取り組み」は、明確な方向性が欠けており、往々にして「施策に取り組むこと自体」が自己目的化してしまうことにもなりかねない。その意味では、オープンイノベーションについても、「外部と連携すること」だけがひとり歩きし、自己目的化してしまっているケースもあるのではないか。このように過去のイノベーション論を捉えなおすことは、今の企業にとっても有用な示唆は多く存在するものと考える。こうした議論を進めるにあたり、時代とともに変容したイノベーション論を俯瞰的に捉え、今後、私たちはイノベーションの類型・要素を整理し、今後の記事コンテンツで述べる日本のイノベーションの創出状況や先進的なイノベーションの取り組みに対する基本的な考え方を示していく。イノベーション創出に向けて取り組むにあたっては何よりもまず、日本の企業、組織、経営者あるいはイノベーション創出に向け取り組む主体の一人ひとりが、「そもそもイノベーションとは何なのか」について、明確に認識することが重要であると考える。
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