序章:コンサルタントの“敗北”
かつて戦略コンサルタントだった私は、完璧な「論理(設計図)」さえあれば、どんな組織も変革できると信じていました。しかし、それは若き日の傲慢な思い上がりでした。
私がYKK APという、歴史ある巨大企業で新規事業開発を任された時、直面したのは、市場ではなく、社内に存在する、見えない壁でした。 完璧な事業計画を提示しても、「前例がない」。 熱意を持ってビジョンを語っても、「それが儲かるのか」。 私は、自らが信奉してきた「論理」と「物語」が、巨大組織の中でいかに無力かを痛感しました。
それは、コンサルタントとしての、私の**“敗北”**の瞬間でした。 そして、その敗北こそが、私に本当の意味での「変革」とは何かを教えてくれる、最も重要な学びの始まりだったのです。
第一章:変革は「外部」からはもたらされない
なぜ、私の完璧な計画は、実行されなかったのか。 それは、その計画が、どこまでいっても**「外部の人間が持ち込んだ、他人事の正論」**だったからです。
変革を担うのは、現場で日々戦っている社員たちです。彼らには、長年培ってきた経験と、守るべき日常があります。その現実を無視した、いかに美しく正しい計画も、彼らにとっては、自分たちの仕事を脅かす「黒船」でしかありません。 人は、外部から与えられた「正しさ」によってではなく、自らの内側から湧き上がる「納得感」によってのみ、行動を変えるのです。
その時、私は悟りました。 変革とは「正しい計画を外部から持ち込むこと」ではない、と。
第二章:変革の“火”は、すでに組織の中にある
変革とは、組織の中にいる人々が、元々持っていたはずの情熱や問題意識に、再び光を当てること。 そして、彼らが「これは、誰かにやらされるのではなく、**“自分たちの物語”**だ」と信じられる、小さな成功体験を、共に創り上げること。
その“火”こそが、どんな分厚い壁をも内側から溶かす、唯一のエネルギーとなるのです。
私は、アプローチを180度変えました。 完璧な計画書を提示するのをやめ、代わりに、現場のリーダーたちに、ただひたすら問い続けました。「もし、あなたがこの会社の社長だったら、何をしますか?」「この仕事を通じて、あなたが本当に実現したいことは何ですか?」と。
最初は戸惑っていた彼らの口から、やがて、これまで誰も語らなかった、現場のリアルな課題と、未来への熱い想いが溢れ出しました。 その無数の「声」こそ、この会社が失っていた、本物の「物語」の原石でした。
結論:『評論家になるな、当事者であれ』
プロジェクトが完了した日、当初は最も懐疑的だった現場のリーダーが、私のところにやってきてこう言いました。 「青山さん。正直、最初はまたコンサルタントが何か言っている、としか思えませんでした。でも、今は違います。これは、誰のものでもない、“私たち”のプロジェクトです」と。 その言葉こそが、私の学びが正しかったことの、何よりの証明でした。
私の信条は、『評論家になるな、常に当事者であれ』。 この言葉は、この時の、痛みを伴う学びから生まれました。これこそが、フューチャーサピエンスのすべてのサービスの原点です。
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